日本企業の利益率はなぜ低いのか pt1

「1980年代まで好調だった日本経済は、90年代になって急激に悪化した。」と一般に考えられている。このように好調だった日本の企業が何らかの原因によって90年代に突然劣化したのだろうか。そうではないことを、以下に示す。
 

企業の低収益こそが日本経済が抱える問題の本質である。企業収益が回復しない限り、株価も時価も顕著な上昇を示すことは無い。不良債権も完全に解消することは出来ないだろう。また税収が伸びず、財政赤字は縮小しない。利益率の低下は銀行の貸し渋りやデフレによってもたらされたものではない。日本企業の構造そのものによってもたらされた問題である。
日本企業の利益率の推移を見ると、3つの時期に区分できる。「高度成長期」。オイルショック以降「金メッキ時代」。90年代以降の「経済敗戦期」。



1、「高度成長期」において、企業の利益率は高かった。特に製造業は8%程度と言うかなり高い水準だった。全産業平均でも6%を超える水準だった。高度経済成長において日本企業の利益率が高かった原因は2つ。「欧米諸国に比較して賃金水準が低かったこと」「為替レートが70年代初めまで1ドル=360円に固定されていたこと」。これらは60年代に特有のもの。つまり、日本経済が高度成長期に戻ることは不可能である。



2、「金メッキ時代」極めて高い水準にあった日本の製造業の利益率はオイルショックを契機として落ち込む。ただし、80年代までは5%程度の水準を維持できた。利益率が低下したのは、欧米諸国との賃金格差が解消されてきたからだ。それは付加価値の推移を見ると明らかである。付加価値=収入―仕入額。賃金の上昇によって利益率が圧縮されていく。当時は日本経済において繁栄の時期だったが、この時期においても日本企業の利益率は高度成長期に比べれば低下していたことに注意が必要だ。つまり、繁栄は全くのうわべだった。
このように、利益率の低下は最近時点で急激に生じたものではなく、高度経済成長の終焉時から徐々に進行してきた現象であるということができる。銀行貸し出しの現象や物価の下落は90年代以降の現象である。よって貸し渋りやデフレが利益率低下の原因でないことは明らかだ。利益率が低下した結果、赤字法人企業の比率が急激に高まり、5割程度の水準となった。



3、「経済敗戦期」90年代以降、製造業の利益率はさらに低下し、3%程度を中心にする水準に落ち込んだ。大雑把に言えば、総資本利益率は、借入金利と株式収益率の和になる。だから総資本利益率が3%程度と言う低い水準では、金利がいかに低下しても、株式収益率は低くならざるを得ない。90年代以降の株式市場の低迷は、こうした原因によってもたらされたものだ。なお、3%程度の総資本利益率は国際的な標準から見ても低い。
 このように、利益が減少した結果、赤字法人の比率が極めて高くなった。上昇を続けた結果、今では「全法人の7割もが赤字」というのは考えてみれば異常な事態である。そうした異常事態にあるのが、現代の日本企業である。不良債権の増加も、税収の減少も、すべては企業収益率によってもたらされたものだ。


pt2につづく