「宇宙における生命 / S・W・ホーキング」

 このお話で、私は宇宙の発展、とくに知性を持つ生命の発展について少し考えたいと思います。歴史上で人類の行為は、その多くがかなりばかげたもので、種の保存を助けたとは思えませんが、この知性体に人類も含めて考えたいと思います。私が論じる二つの問題は、生命が宇宙のどこかに存在している確率がどのくらいかという問題と、生命が未来にどのように発展していくか、という問題です。


 物事は時間が経つと無秩序になり、混沌としていく。
これは日常経験することです。この経験事実は、一つの法則、いわゆる熱力学の第二法則としてまとめられます。

熱力学の第二法則
無秩序は時間とともに増大する

 すなわちエントロピーの総量は常に時間と共に増大するというものです。しかしながら、この法則は無秩序さの総量についてのみ述べたものです。ある物体の秩序が増加できるのは、まわりで無秩序の増分が物体の秩序の増分よりも多い場合だけです。これが生物で起こっていることです。
 生命とは、無秩序へ向かう傾向に反して自らを維持でき、自分自身を複製できるような、秩序あるシステムと定義できます。すなわち、生命は、似てはいるが、独立した別の秩序あるシステムを作ることができます。
 これらのことを行うために、システムは食物、日光、電力のような秩序だった形態のエネルギーを、無秩序なエネルギーである熱の形態に変えなければなりません。こうしてシステムは、無秩序の総量は増加するという要請を満たしながら、同時に自分自身では秩序を増やし、子孫をもうけているのです。


 生物は通常2つの要素を持っています。
ひとつはシステムの維持と自身の複製を指示する一組の指令であり、もうひとつはその指令を実行する機構です。生物学で、これら二つの部分は遺伝子と代謝と呼ばれています。しかし、それらは何ら生物学的である必要がないということを強調しておきましょう。


 例えば、コンピュータのウィルスはコンピューターのメモリーの中で自分の複製を作り、自分は他のコンピューターへ転移するひとつのプログラムです。こうして、コンピューターウィルスは私がお話した生命システムの定義に当てはまっています。生物学的なウィルスのように、それは指令あるいは遺伝子だけを含み、自分の代謝系を全く持たない点でむしろ退化した形態をしています。その代わりに、コンピュータ・ウィルスは寄生しているコンピュータ、つまりその細胞に代謝を行うプログラムを組み込ませます。

 
 ウィルスを生命と見做すべきかどうか疑問視する人もいます。ウィルスは寄生体であり、その宿主と独立して存在できないからです。しかし、同時に私達自身も含めて生命の大部分の形態は、寄生体となります。そのことは私達が食料源、それに生存していくうえでも他の生命形態に依存しているということが示しています。私はコンピュータ・ウィルスは生命として考えるべきだと思います。恐らく、それが語っていることは、私達がこれまで作り出した生命の唯一の形態が紛れもなく破壊的なものであるという人間の本性です。私達自身の形態に基づき、生命の誕生についてお話しましょう。電子的形態をした生命については、後ほど、また戻ることにします。


(以上、冒頭部抜粋)

打ちだしてみて気づいた。
ホーキング、文章うまっ!!笑


いやしかし、生命観の見直しを迫られるね。
この講演内容は物理初心者にもわかりやすいうえ内容も秀逸で興味深いので、全部引用したいくらい。まぁ気が向いたらってことで。