『苦悩する同性愛の子どもたちを、どうか見捨てないで!』 日英の<性的マイノリティー>の若者たちが東京に集い、活発に議論(JANJANニュース)


8月19日から30日まで、東京都内で性的マイノリティーの若者たちの集い、「日英LGBTユース・エクスチェンジ・プロジェクト」が開催された。LGBTとは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの略称。このプロジェクトは、LGBTが抱える問題に関心のある若者たちが出会い、顔の見える交流を持とうと誕生したアクション。東京・三鷹国際基督教大学ジェンダー研究センターと、イギリス西部・ブリストル市(Bristol City Council Youth and Play Services)が共同運営している。

 8月19日から30日まで、東京都内で「日英LGBTユース・エクスチェンジ・プロジェクト」が開催された。日本とイギリスの、同性愛者などLGBT(※1)の若者たちが集い、交流を深めて意見交換を行うのが主な内容。今回が初の試みである。

※1:LGBTとは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの略称。同性愛者・両性愛者・性同一性障がいの人たちなど、性的マイノリティーを総称する呼び方として、世界中で定着している。


 このプロジェクトは、日本とイギリスの、同性愛者などLGBTの若者たち/自分がLGBTではないかと思い始めている若者たち/LGBTが抱える問題に関心のある若者らが出会い、顔の見える交流を持とうと誕生したアクションだ。


 東京・三鷹国際基督教大学ジェンダー研究センターと、イギリス西部・ブリストル市(Bristol City Council Youth and Play Services)が共同運営している。東京での第1回開催を目指し、去年の秋から準備されていた。


 文化や社会・生活について学び合う。同性愛者などLGBTである(かも知れない)ことによる体験や苦悩を分かち合う。誇りを持って支え合う。文化の違いを超え、メッセージを共同発信する。LGBTに対する理解と援助とを社会に提言する。――これらを活動目的の柱としている。

 8月24日に東京・渋谷・国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された「公開イベント」を取材した。



<イギリスからやってきたレズビアン・ゲイ・バイセクシュアルの学生たちが、イギリス・LGBTの人権問題関連史と現状をリポート>


 1960年代以降、同性愛者などLGBTの人たちに対する人権意識の目覚めと高揚、それに伴う法的保障の整備が、イギリスで如何に進捗してきたかが語られた。

 イギリスでは、75年に性差別(禁止)法(Sex Discrimination Act)が施行。性同一性障がいの人たちの雇用が保護されるようになり、2004年には性別登録法が作られて、性適合手術を受けなくとも希望する性別へ公的書類の変更手続きがとれるようになった。05年には、シビルパートナー法が施行され、同性同士で愛し合う二人が男女の結婚と同等の法的保障を受けられるようになった。同性カップルの準婚制度が実現した。


 日本との大きな違いを痛感するのは、イギリスでは同性愛者などLGBTの若者たちが、諸々の支援システムによって、しっかり守られている点だ。


 ホモフォビア(同性愛に対する嫌悪から起こる差別や暴力)に対抗するための公的組織(Educational Action Challenging Homophobia=EACH)が、全英規模で展開しており、教育の場面で苦しんでいる同性愛者などLGBTの若者たちを手厚くサポートしている。フリーダム・ユースのような、LGBTの若者たちへの支援団体が、どの大都市でも運営されている。また、親たちや学校の教師たち、労働現場のスタッフたちが、LGBTの若者が抱える諸問題を理解するためのトレーニング・プログラムがある。


 ブリストル市の学生たちが、イギリスでLGBTの若者たちにインタビューしたところ:


 *学校で、いつもからかわれ悪口を言われる。
 *同性愛なんて一時的なことだと、みんなが言う。
 *家族はカミングアウトを受け入れるのに時間が掛かったが、いまでは、正直になれたことを家族ともども喜んでいる。
 *カミングアウトで開かれた扉もあるが、閉じた扉もある。
 *カミングアウトは難しかったが「サポート」もたくさん受けた。カミングアウトする価値はあった。



――などの声が寄せられたという。


 発表を担当したイギリスの学生は、「もし、こうした『サポート』が無かったなら、いままでの人生は、きっと10倍もつらかったことでしょう」と、リポートを締めくくった。


<日本のLGBT学生たちも、自分たちを巡る現状や問題点を報告>


 替わって登壇した日本の学生は、――メディアにおける問題、教育現場で感じること、大学の実態、同性愛者の高い自殺(念慮)率――などについて、次のようにレポート:



 *日本のメディアでは、LGBTが日常的に笑いの対象とされている。
 *同性愛をネタにした冗談がつらい。友だちとの関係は大事だし、疑われるのが嫌だから、迎合して笑わざるを得ない。
 *政治家のLGBT差別発言が、大きな問題にならない。
 *これまで、未成年対象の「ケータイ有害サイトアクセス制限」で、同性愛関連サイトが一律規制対象となってきた。精神面でのケアのために、本来は届けられるべき情報まで遮断されてしまうのは問題である(※2)。
 *学校カウンセラーや教師にLGBTについての知識/配慮が足りない(※3)。
 *学校生活の諸場面や教科書の記述などで、恋愛・結婚・家族生活がすべて【男女/異性愛】を前提として語られ、教育されている。
 *同性愛者が常に性的存在として見られている。
 *特に、性同一性障がいの学生たちは、人知れぬ苦悩を味わっている。男女分けされた学生名簿・制服・トイレ・更衣室……。改善提案として、名簿の
男女分けをやめる・ユニセックスなデザインの制服を採用する・トイレや更衣室で男女分けをしないなど、性別を問わない学校生活/社会生活の実現を訴えたい。
 *ハラスメントのガイドラインでLGBT学生への配慮がある大学は、調査した150大学のうち、1割の15校に留まっている。また、大学内のLGBTサークルは、全国で42団体しかない。
 *同性愛や両性愛の男性の64%が、また、性同一性障がいの人たちの68%が自殺を考えたことがある。



※2:「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構」は先月、同性愛関連サイトを規制対象から除外する改善案を提示した。

※3:教師が、何食わぬ顔をして「ホモ」「オカマ」などの言葉を侮蔑的に用いている。/同性愛者などLGBTは「気持ちが悪い」と、教師から平気で言われる。/「エイズはゲイのせいで拡がった」と吹聴する教師がいる。/海外のパートナーシップ法を説明する教授が「鳥肌が立つようなことだけれども……」と前置きをする。/など。



<日英の大きな違い>

 日本もイギリスも、LGBTユースたちが似たような苦悩を共有している反面、違いも大きい。


 日本では性同一性障がいの人たちの存在が広く知られるようになり、一定の理解が得られつつある一方、日本より性同一性障がいの人たちのための法的整備が進んでいるはずのイギリスでは、意外なことに、一般市民の認知度や理解が希薄だと報告された。


 日本では「LGBTサークルに入りたいけれども、どうやってサークルを探したら良いか分からない」LGBT学生が多いのに対し、イギリスでは「何もしなくても、自然にLGBT学生たちが集まる」傾向が強いことが紹介された。比較的カミングアウト率が高いことは、自己主張を厭わないヨーロッパ人的性格によるところが大きい。カミングアウトを果たしているLGBT学生がいれば、当然、そこにLGBTのネットワークが自発的に生まれることにもなる。


 LGBTユースへのイジメは、イギリスでは、ゲイフォビア剥き出しの直接的で暴力さえ伴う激しいものだが、日本では、関わりを持たないよう無視されたり、暗黙の軽蔑や冷笑など、間接的で陰湿なケースが多い。


 日本の場合、カミングアウトをされた側は、事実をどう扱って良いのか判断できず、LGBTが、まるで腫れ物に触るかのように取り扱われ、話題を避けられ、真っ直ぐに話し合って貰えない。好意的に解釈すれば、カミングアウトした人を傷つけないようにする配慮と言えなくもない。だが、イギリスの場合、目の前にカミングアウトをした人がいると議論を始め、コメントを強く吹っかけ過ぎて相手を傷つけてしまうのだという。


<同性愛者などLGBTだって、もっと自分の人生をエンジョイできるはず>


 この「公開イべント」には約100名が参加。そのうち、イギリス・ブリストル市から参加したのは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルの若者7名(16〜22歳)と、同市職員。また、日本からは50歳代の現役高校教師や、自殺問題に取り組んでいる市議なども参加した。


 友人と2人で参加した日本の大学生(レズビアン)は、「こうしたイベントに参加するのは初めてです。部活が忙しかったのと、自分の大学にLGBTサークルがありません。インターネット上の交流は、顔が見えなくて不安なので、直接、顔を合わせて話し合うほうが安心します。参加して良かったと思います。同性が好きになるなんて、自分だけ『ヘン』だと思って悩んでいました。でも、ほかにも同じような戸惑いを経験している同世代の人たちがいることを知ったから、とても参考になりました。これからもこうしたイベントに参加したいです」と、少し恥ずかしそうに語った。


 ブリストル市から来た17歳の高校生で、スタッフとして司会を務めたほか、アトラクションとして見事な歌声まで披露してくれたウィリアムス君(ゲイ)に、日本とイギリスのLGBTユースを比べて、何か違いがあると思うかどうか尋ねてみた。彼は、「(個人個人に)あまり違いは無いと思うけど、多少あるとするなら、法律がどうなっているかとか、学校の取り組み方、それと宗教的な見方など、まったく違う土壌があると思います」と、饒舌に答えてくれた。


 29歳の“元ユース”女性(レズビアン)は、「自分が十代だったころは、まだ情報もほとんどなく、もちろんこうしたアクションもありませんでした。同性愛についての正しい知識を得られなかったので、とても苦しい思いをしました。だから、いまの若者たちには、同じような苦しみを味わって欲しくありません。今日は、若者たちの活き活きとした姿を見られて良かったです。これからは、もっと異性愛者の人たちにも来て欲しいですね」と、感想を述べた。


 通訳を務めていた大学生のスタッフ、マサキ君(ゲイ)は「イベントは成功したと思います」と、まろやかに微笑んだ。「小さなLGBTユースの活動はこれまでもあったのですが、こうしてインターカレッジ的結びつきを持った大きなイベントは滅多にできませんでした。これからも続けたいですね。来年は、日本側の学生がブリストル市を訪ねることが予定されています。あと、日本の高校生も参加できたら良いですね」


 一方、同性愛者向けのイべントも手がけることがあるという、こちらも“元ユース”の男性(ゲイ)の意見は少し厳しい。「イギリスは明らかに進んでいますし、日本との違いはハッキリしています。イギリスの先進性や長所を日本の現状にどうやって反映させられるのかが重要だと思います。イギリスの状況は日本から見れば一種のファンタジー。文化的社会的ベースが違うので、そのまま日本に持ってきて、根付くとも思えません。このプロジェクトの継続的開催は好ましいけれども、資金を出してくれる側も、毎回、漠然と出資し続けるのは無理なので、こうしたアクションを日本のLGBTのためにどう活かせられるのかを提案しない限り、やがて意味を感じないと見なされてしまうかも知れませんね」と、現実的なコメントだ。


 イギリス・ブリストル市から来た学生で、大学のLGBTユースを取材した映像ドキュメンタリーフィルム制作担当のジオさん(レズビアン)に、いくつか質問を試みた。



 *作品に登場したイギリスのLGBTユースは、全員がとてもポジティヴな意見を持っていた。取材をしたとき、悲観的見解だったり、インタヴュー自体を拒否した学生などはいなかったのか?


 「全然いませんでした。私の大学には、とてもリベラルな校風があります。だから、排他的な主張をする生徒は、かえって、その人自身が遠ざけられてしまいます。そういう気質がある大学だから、LGBTの生徒たちは、のびのびと生活しています」


 *他の大学ではどうか? 


 「地域(大学)ではなく、年齢(ジェネレーション)が上がるほど(子どもから大人へ)、LGBTを受け入れる人たちが多くなっています。LGBTの問題は、最近になって出てきたわけではなく、かなり昔から認識されているので、年齢が上がるにつれ意識が成熟し、受け入れてくれるようになります。また、富裕層は比較的LGBTに寛容なので、もし私が貧困層のLGBTユースにインタヴューをすれば、もっとネガティヴなコメントもあったかも知れません」

 とのこと。

 最後に、日本のLGBTユースと接して、どんな印象を受けたかを訊くと、“LGBT先進国”イギリスの若者ならではの、堂々とした答えが返ってきた。

 「セクシュアリティーやLGBTの問題だけにフォーカスして自分の人生を歩もうとするのではなく、人生には、ほかにもっといろいろな楽しいことがあるのですから、せっかくの自分の人生をエンジョイすることを第一に生きようと考えてはどうでしょうか? LGBT問題なんて、(私たちの人生を満たす)たくさんの要素のたった一つに過ぎないのですから」

 ともすると、頑張り過ぎるあまり疲れ果ててしまい、当事者の心も体もボロボロになってしまいがちなのが、日本のLGBTムーヴメントである。ジオさんの言葉は、見事にその本質を突いていた。



<現場の教師たちだから、できること>

 このプロジェクトのコーディネーターで、国際基督教大学ジェンダー研究センター事務局の井上有子さんは、「ホントは、東京のような大都市だけでこうしたアクションをやってるのでは、歯痒いんです」と嘆く。

 「地方で、パソコンを持っていないLGBTの子どもたちは、漫画喫茶でインターネットにアクセスし、かろうじて情報を得ようとしています。できることなら、交通費を払ってあげてでも(イべントに)呼んであげたいのです。もっと資金があれば、こちらから地方へ出向いて、LGBTユースキャラバンを組みたいぐらいなのですが……」

 井上さんは、日本でもLGBT教育が重要だと強調する。「学校で、生徒から同性愛の悩みを打ち明けられたとき、たとえば『先生はゲイじゃないからよく解らないけれども、これこれこういう団体があるようだから行ってごらん。何なら先生も一緒に行ってあげよう』と言って、私たちのアクションを紹介をしてくれるだけで、子どもたちへの効果がぜんぜん違うんですよ!」

 いま日本では、LGBTユースたちが、ひどく追い詰められている。イジメの横行〜悪化と、無関係ではない。

 イギリスでさえも、カミングアウトを果たした教師など、ほとんどいないようだ。日本では、なおさら難しいだろう。しかし、本当は同性愛者の教師も、世の中には大勢いるはずだ。

 カミングアウトまでする必要はない。どうか気骨を携え、子どもたちのために立ち上がって欲しい。


(2008・9・5 JANJANニュース)