記憶の操作可能性 PTSD治療に利用可か

【10月23日 AFP】米ジョージア医科大学(Medical College of Georgia)はマウスを使った研究で、マウスの記憶を選択的に消去することに成功したと、23日発行の医学誌「セル・プレス(Cell Press)」に発表した。PTSD心的外傷後ストレス障害)など、記憶に起因する障害の治療に応用されることが期待される。

 記憶は通常、獲得・連結・保持・想起(再生)の4段階に分けられる。各段階で一定の役割を果たすとみられる「記憶分子」は、これまでの研究ですでに特定されている。

 今回、研究チームは、この記憶分子と呼ばれるタンパク質の一種、「CaMKII(カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII)」の活動を短時間で操る化学的な技術を開発した。CaMKIIは脳細胞間の伝達において重要な役割を果たし、学習・記憶におけるあらゆる局面に作用する。

 チームは、CaMKIIを大量生産するように遺伝子を組み換えたマウスで、短期的・長期的な恐怖の記憶や、新たな物体認識の記憶の再生を操作できるかどうか試験した。この結果、記憶が刺激されたときに、マウス脳内のCaMKIIを操作できることを確認した。さらに脳が刺激に関連する記憶を再生する能力を観察した。

 CaMKIIの操作によってチームは、刺激に関連する記憶の再生を遮断するだけではなく、その他の記憶再生能力にはまったく影響を与えずに、該当する記憶だけを消去する技術を発見した。

 研究を主導した同大のジョー・チェン(Joe Tsien)氏は、「記憶の選択消去はもはやサイエンスフィクションの世界だけのものではない」と語る。チェン氏は1999年に学習・記憶能力を強化した遺伝子操作マウス「ドギー(Doggie)」を開発したことでも知られる。

 同チームは、今回開発した新技術はまだごく初期の段階にあると強調するが、将来的には戦争帰還兵などのトラウマ的記憶や深層心理に根付いた恐怖を消去するなど、PTSDなどの治療に役立てられることが期待されている。(c)AFP