1:29:300の法則 〜ハインリッヒの法則〜

労働災害における経験則のひとつ。一件の重大災害の裏側には、29件のかすり傷程度の軽災害があり、その裏には怪我に至らなかったが「ヒヤッ・ハッと」した「ヒヤリハット」という体験が300件ある、というもの。「1:29:300」の法則とも呼ばれている。


さらに、

  • その背後には数千件の不安全行動、不安全状態がある
  • 災害の背後にある不安全行動や不安全状態の98%は予防可能
  • 不安全行動は不安全状態の9倍の頻度で出現している


と述べている。


これはアメリカの労災保険会社の研究部長であったハインリッヒが半世紀にわたる55万件の災害データを分析して、1929年に論文を発表し、1931年に書籍として世に出たもの。彼は、「事故は確率現象である」と言った。


ビジネスにおける失敗発生確率としても活用されており、例えば『一件の大失敗の裏には、29件の顧客から寄せられたクレームで苦情が明らかになった失敗があり、さらにその裏には300件の社員が「しまった」と思っているが、外部から苦情がないため見過ごされている、認識された潜在的失敗が必ず存在する」といえる。さらに日常、ヒヤリハットの状態にまでいかないが、実際には、不安定な状態や行為になると、相当な件数になるはずであろう。


2005年4月25日の兵庫県尼崎市のJR福知山線で発生した脱線事故は、死者が旧国鉄京浜東北線桜木町駅の列車火災事故(1951年4月)と同じ計106人に上り、戦後の列車事故史上4番目の惨事となった。同社の教育体制や過密ダイヤなど様々な背景が明るみになったがほかにも現場からは「事故の芽」になりうる短距離のオーバーランなどの小さな要因が300件以上報告されたそうだ。





同様に潜在危険を取り除くため、米国フランク・バードが1969年に「バードの法則」を発表した。これは米国の21業種297社の約175万3500件の事故データから「重大事故:軽傷事故:物損事故:ヒヤリハット」は「1:10:30:600」という割合を導きだしている。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


小さなミクロ的要因の集積が、大きなマクロ的変化をもたらす。
微小な水分子の振動という「熱量」の総和が一定値を超えたときに、【氷→水→気体】というマクロにおける「相転位」を引き起こす。
個々の分子の振動がミクロであり、水や気体などの状態がマクロ的な状態である。


【現象は確率としてしか把握できない】。


これは複雑系の概念にも通じる。だから一時期、複雑系が物理や数学、果ては経済や政治にも適用できる!というムーブメントへとつながったわけである。例えば政治なら、個々の庶民の動きは把握できないが、その個々の行動の集積によって起こる現象でもって社会を把握しよう、といった具合だ。選挙も世論も、確率だ。厳密にいえば彼らにとって確率的解釈が一番、適切であるということになるんだろうが…。



ゆえに逆手にとれば、僕らにできることはひとつ。
ミクロである自分という現象から、周辺の同じくミクロの要因である仲間を「揺り動かして」いけばいい。またそれ以外にない。その個々の運動が一体どのようなマクロ状態を引き起こすかは【未知】だ。そしてもしあるマクロ的な現象としてムーブメントが起こった時、そのムーブメントというマクロ状態の変化によって、さらにまた個々のミクロの運動は影響を受け、変わっていくだろう。


全体と個はフィードバック関係にあるのだ。


このシステムを複雑系では「創発」と呼んでいる。