『パニック障害はここまでわかった / 竹内龍雄』

パニック障害はここまでわかった

パニック障害はここまでわかった


星:★★★


とりあえずは記憶をつかさどる海馬と、恐怖の情動をつかさどる扁桃体、さらには危険度をどれだけ敏感に認識するかのシステム系(PAG)、この3つの障害によるもの、という解釈がなされているようだ。


パニック障害は、年間有病率で0.5〜1%、生涯有病率で1〜2%、性別では女性が多く、男性の約2.5倍、発症年齢は青年期後期から30代半ばが多いと報告されている。最近の調査では有病率5%という報告もあり、増えている可能性もある。パニック障害は100人に1〜5人が経験するごくありふれた疾患であること、また比較的女性に多い。


パニック障害の原因


原因はまだ十分に分かっていません。しかし近年の研究の進歩から、症状を引き起こしている脳内疾患の解明がかなり進んでいます。これまで提唱されてきた病因・病態仮説には大きく分けて心因説と、生物学的原因説あります。心因性認知行動療法やその他の精神療法の治療原理を説明する仮説として提唱されたものが多く、生物学的仮説は薬物の効果や実験結果を説明する過程で提唱されたモデルが中心です。


今のところ有力なのは、情動の中枢である扁桃体という部分を中心とした恐怖のネットワークと呼ばれる神経回路の機能的な異常が、症状を引き起こしているというものです。またこの回路は主としてセロトニン神経によって制御されていて、SSRI抗うつ薬の一種)がこのセロトニン神経の機能不全を改善することによって治療効果を発揮すると考えられています。また、この回路はより上位の大脳前頭葉の支配を受けていて、認知行動療法は認知のゆがみの修正などによって前頭葉から扁桃体に効果を及ぼし、症状を改善すると考えます。扁桃体を不安・恐怖の中心とし、パニック発作はより解の脳幹部の青斑核や中脳水道周囲灰白質に、予期不安は海馬、視床下部を含む辺縁系に、広場恐怖は上位の大脳皮質が主として関与するとの考え方に基づいています。米国のゴーマンによって提唱されたモデルですが、動物の恐怖条件付けの実験データに基づくもので、まだ人で実証されたわけではなく仮説にとどまっています。



しかし、熊野先生たちはこれを実際の患者さんで検証し、海馬、扁桃体の活動性亢進、前頭葉の活動性低下、中脳水道周囲灰白質代謝更新などの結果を次々に提出しました。これらは上記モデルの説明を裏付ける結果で、パニック障害が脳の機能異常による病気であることを明らかにしています。

パニック障害の神経解剖学的仮説


さて、大脳の奥に先ほど話に出た扁桃体という部位があります。この扁桃体の異常がパニック障害を引き起こすという仮説がゴーマンによって2000年に提唱されました。人間の不安・恐怖体験を覚えておく場所には2つあって、それは扁桃体と海馬です。電車に乗って怖い思いをして発作を起こしたとしましょう。そうすると、この扁桃体、海馬にその恐怖体験が記憶されるわけです。扁桃体は、直接のきっかけと恐怖体験のつながりを記憶します。一方、海馬は状況を記憶します。仮に、まったく同じ線路の同じ時間帯の電車に乗った場合でなくとも、なんとなく不安な気分になってパニック発作が起こった時には、どこか状況が似ていることがきっかけになっている事が多く、そういった場合には、海馬が関係していると考えられるのです。


 扁桃体が興奮すると、青斑核やストレス反応をつかさどる視床下部、呼吸をつかさどる傍小脳脚核、防御反応をつかさどる中脳水道周囲灰白質(PAG)などに伝達されて一気にパニック発作があらわれると考えられています。

ただ、扁桃体が興奮するには入力信号が必要です。その入力回路は3つあると考えられています。1つは海馬で、似たような状況に会うと、海馬が働きます。2つは、内臓性求心性繊維で、たとえばどきどきした感覚を扁桃体に伝えます。3つは、前頭前野帯状回(大脳皮質の前頭葉に位置する)で、ここであれこれいろんなことを考えると、扁桃体が刺激され、発作が起こることになります。



しかし、このモデルでは理由なく起こってくるパニック発作のメカニズムが説明できません。記憶によって繰り返し起こるパニック発作の説明にしかなっていないわけです。そこで注目されているのが、PAGです。ここは、過去の記憶とは関係なく、自分にとって危険である環境を認識して、興奮を高めます。危険度の高い環境を認識するというのは、人間にとって正常な反応なわけですが、仮にPAGに機能障害があれば、本当は危険ではないにも関わらず、発作がおきます。これはコープランが提唱している考え方です。




一応、自分のメモ的感覚で書いておきました。


治療は薬物療法認知行動療法の効果が認められている。わたしは、個人的にこの「認知行動療法」というのには非常に注目している。一応アメリカでは最も効果が認められている心理療法であるとも聞くが。。。ともあれ、一番フォーカスをあてるべきは「認知」であるとの思いがあるので―――。(仮にも将来臨床家を目指すものとして。)


認知心理学認知科学認知行動療法―――ここらへんの領域、ね。