アキレスは亀を追い抜けないのか

ゼノンという人がいた。アリストテレスよりももっと昔の人だ。その人が4つのパラドックスを提起したと言われている。ゼノン自身がどういうつもりだったのか必ずしもはっきりしないのだが、パラドックス自体がとびぬけておもしろいものだったので、現在でもなお、ゼノンその人の思想とは別に問題そのものが「ゼノンのパラドックス」と呼ばれてさまざまに論じられている。私たちもまたこれからしばらくの間、それら4つの謎をたどっていくことにしよう。

アキレスと亀パラドックス

4つのパラドックスのうち、一番有名なのは「アキレスと亀」のパラドックスだろう。ギリシア神話の英雄アキレスが亀と競争する。亀もその気になればけっこうしゃかしゃか走るのだが、いかんせんアキレスにはかなわない。そこでハンデをつけて、アキレスは亀の後ろからスタートさせることにする。ところがここでこう論じられるのだ。


よーい、ドン。両者は動き始める。アキレスは自分の出発点Aから、すぐに亀の出発した地点Bに到達する。しかし亀だって止まっているわけではない。アキレスがBに到達したときには、少しだけだとしても亀は少し先の地点Cに進んでいる。アキレスはさらに進み、Cに到達する。しかしそのときには亀はそのもう少し先のDに動いている。アキレスはさらに進みDに到達する。しかしそのとき亀はもう少し先のEにいる。………のろくはあるが止まっているわけではない。どうしたって、アキレスが亀のもといた場所に着くと、亀は少し先にいる。いつまで経ってもこの関係は変わらない。変わりようがない。だとすれば、アキレスは亀を追い抜けない、ということだ。


もちろんそんな馬鹿な話は無い。どこかが間違っている。だがどこがまちがっているのだろう。


こんな風に答えてみたくなるかもしれない。
計算しやすいように、亀の速度を分速1メートル、アキレスの速度を分速2メートル、そしてアキレスは亀の後方1メートルのところから出発するとしよう。Aを出発したアキレスが亀の出発点Bに到達するまでの時間は1/2分。その間に亀は1/2メートル進む。そこがC。そしてアキレスがそのC点に到達するには1/4分かかる。その間に亀は1/4メートル先に進んでいる。そこがD。以下同様。この足し算はかくして、


S=1/2 + 1/4 + 1/8 +……
となる。そこでSを2倍すると、


2S=1 + 1/2 + 1/4 + 1/8 + …


だから、2S−S=1.


すなわちS=1で、アキレスは1分後に亀を追い抜く。つまり、アキレスの移動時間を無限に足し算しても無限大の時間になると考える必要はないのである。無限小へと限りなく限りなく近づいていく値を無限個息した場合、それが有限の値に収まることもある。これはゼノンの時代には分かっていなかった。しかし今のわれわれはそのことを知っている。だから、もうこのパラドックスに悩まされる必要はない。そういうわけだ。


 だが、この答えは見事に的を外しているのである。そのことを示すため、ゼノンのパラドックスとは別に「超作業法のパラドックス」というのを考えてみよう。



 アキレスが自然数(0、1、2、3…)を書き出している。最初の0を1/2分かけて書き、次の1を1/4分かけて書く。以下、かかる時間が前の時間の半分になり、2は1/4分、3は1/8分かかる。こうして作業を続けると、先の計算によれば1分後にこの作業は完了することになる。
どういうことか。
1分後、アキレスは顔をあげてこういうのだ。「いま、わたしはすべての自然数を書き終えた!」


だけど、「すべての自然数を書き終える」なんてことがありうるはずがない。たとえ無限個の足し算の結果が1になり、数学的には1分でこの超作業法が完了するとしても、時間の問題ではないのである。


アキレスと亀のパラドクスは、「こんなことやってたら無限に時間がかかっちゃう」という問題ではなかったのだ。たとえ時間的には1分のことであるとしても、その間にアキレスは無限回の作業を成し遂げてしまうことになる。しかし、無限回の作業を成し遂げるというのは、まさに「無限」ということの意味からしてナンセンスなのである。「いま、すべての自然数を書き終えた」、このアキレスの言葉は端的に意味不明でしかない。すべての自然数を数えるには無限に時間がかかるからというのではなく、自然数とは定義上、数えつくせないものなのである。


なんか今まで分かった気になってたけど、今打ち出しながら咀嚼してみたらよくわからんくなった。笑


数学的にはすべての自然数を1分で書き終えれるけど、それは原理的に無理。


→数学的にはアキレスは1分で亀に追いつくことが出来るけど、それは原理的に無理。


ってこと?
あ、ちがうな。
「たとえ時間的には1分のことであるとしても、その間にアキレスは無限回の作業を成し遂げてしまう」ことが矛盾なんだ。


つまりアキレスは亀に追いつける、けどその「追いついていることが矛盾」、と!けど…



…んなわけあるかいぃぃぃぃぃぃーーーーーー!!笑
この俺が走って亀に追いつけねぇわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!笑 (という当たり前の思いをいまさら叫んでみる)


第二のパラドックスに続く。。。