身体全体につながる【眼】のネットワーク 「『アイ・ボディ』 / ピーター・グルンワルド」

アイ・ボディ―脳と体にはたらく目の使い方

最初この本を読み始めた時、「何だこの本は?」と思った。「何をいきなり言い出すんだ、こいつは?」と。笑 そういうのの連続でしたね。一般的に読んできている本とは明らかに趣が違う。聞いたことがない話だ。しかしこいつには近年まれに見る知的好奇心を覚えてしまった。


一言で言うと「目を動かしている筋肉ないしは角膜、結膜、涙管、水晶体、ガラス体、脈絡膜、網膜等の各部位は普段は意識できないものだが、これらは意識に上げて動かすことが出来、しかもそれらの動きは脳に直結していて、各部位の動きは頭からつま先まで連動し、さらには精神面にまで影響を及ぼす。よって、近視や乱視、斜視などは自力で治すことが出来る。また、目の使い方は身体の姿勢、考え方まで影響を及ぼすものである。したがって、目の使い方をコントロールすることで、その人間の心身の調和を図る。」というのが、この本の主張。
著者自身は近視と乱視と吃音に悩んで、それを自力で治している。視覚脳を意識的に使うことで、その機能を改善して、だ。そのために用いた【アレクサンダー・テクニーク】なるものとニューヨークの眼科医ウィリアム・H・ベイツの【ベイツ・メソッド】を統合した彼の理論を『アイボディ(メソッド)』と呼んでいる。



はっきり言って信じがたい。笑 だいいち目を動かして、「目のここを動かすと胸部のここがピクピク動くのが段々意識できるようになった」とかそれ、あなたは分かっても一般化できんだろ!このボケ!おまえはミルトン・エリクソンか!と思わず突っ込んだが、曰くワークショップなどで他の一般人にもきちんと適用できているらしい。日本にも年何回か来ているとのこと。私はあんまりいきたくない。まぁちょっと気にはなるけどさ。


ま、とはいうものの個人的には、だいたい人間の能力なんていうのは「理解できるか/できないか」の違いくらいでしかないと思っているので、こういうのも不可能ではないとは思う。無意識を意識にあげればコントロールできる。【理解】すれば、使える。それは当たり前。無意識で行っている呼吸を意識的に行えば、無意識の身体機能に介入できる、それと同じ。気功を極めた人なんかは心臓の鼓動を自分でコントロールできるくらいらしいんだからさ。いけるっしょ。それにしても目と脳は神経的に密接な関わりがある、というのは心理療法EMDRなどで理解してはいたが…、まさかここまで話を広げる人がいるとは思いもよらなかった。脳の視覚野(頭蓋の後ろらへん)が新皮質全体の4分の1〜3分の1を占めていることや(ちょうど手の平を頭の後ろに当てたくらいの大きさ)、視覚情報の処理のために脳全体の60%が働いている、という本書の記述が解剖学的にも正しければ、いかに人間が目に頼りきった生き物かが分かる。(=目に頼るがゆえに、ある意味目に騙され、縛られてもいる。)


(但し、著者は本書の冒頭で「本書の出版社および著者は、本書が医学的に使用できるという主張はしていない。本書はいかなる病気も治療、診断、助言等をする意図を持っていない(趣意)」と免責事項で書いてはいる。)参考程度に読む分には大変面白い本だと思う。




人間が進化の過程で発達させた3つの脳―――爬虫類の脳・大脳辺縁系大脳新皮質

私たちの脳は、すでにある脳にかぶせてさらに新しい脳を築くというかたちで長い時間をかけて進化してきました。それぞれの脳には基本的機能があり、それぞれ生理的なもの、感情的なもの、知的なものに関わりがあります。視覚システムはそのいずれをも通り抜けるものであり、これら3つの脳すべてに存在する、おそらくはたったひとつの感覚なのです。これが視覚システムがユニークであるとされる理由の一つであり、人間とは見る動物であるといわれる由縁でもあるのでしょう。


視覚システム全体がいかに複雑なものであるかを示す例を一つあげると、科学者が提供者の網膜を他の人の目に移植できるようになるにはまだまだ程遠いということがあります。心臓や腎臓、肝臓、肺、そして角膜(目の外側部分)の移植は可能であるにも関わらず、現状はそうなのです。網膜と脳をつなぐには、無数の視神経経路をつなげなければならないため、いまだに成功していないのです。脳の視覚野は頭蓋の後ろにあり、新皮質全体の4分の1から3分の1を占めています。私たちの脳の容量の多くが視覚処理に用いられているのです。
視覚野は絶えず脳のほかの部分に情報を送っており、この視覚情報のために脳全体の60%が働いています。脳内の神経回路は、あらゆる視覚的思考によって作動させられています。視覚野は視力のみにかかわっているのではなく、ほかの側面にも、視覚的記憶や視覚的想像力、夢の映像などあらゆる視覚に関する面にも関わっているのです。おそらく目を閉じているときでさえ、視覚野は忙しく働きまわっているでしょう。




胎内における目の形成

 胎内での目の形成は受胎後3週間で始まります。その後わずか7週間で、成長中の脳組織の層のひとつから眼球が生成されるのです。そういったわけで、目は脳の一部なのです―――また、目とは脳の中で唯一外界にさらされている部分とも言えます。さらに妊娠して7カ月がたつと、対内でまぶたが開きます。

「目は脳から形成されて、脳の中で唯一外界にさらされている部分ともいえます」のくだりには驚いた。ある意味、目は脳そのものなのか。なんてリスキーなことするのか、脳よ。おかげで君はEMDRはじめ、脳に介入されるかっこうの餌食だ。



  • 加えてこれは初めて聞いたのだが、目の生理学的観点から見て、光の強度や色彩を調節する受容体である錐体・捍体の分布比率はなんと約5:95くらいだという。圧倒的に捍体のが数を占めている。著者曰くこの捍体細胞とその神経は目をパノラマ視することで刺激することができるとのこと。例えばこのブログの文字一字一字に焦点定めて見るのが「フォーカス視」だとすると、その反対にぐっと視野を広げて全体をパノラマ的に焦点を合わすのが「パノラマ視」。「網膜と脈絡膜が広がると思いながら」(←どんな感覚だよ)パノラマ視をすると視床および視床下部の機能が刺激され、身体メカニズム全体の機能最適化に寄与できる、という。もし、この部分がパノラマ視によって適切に刺激されていないとすると、対内の副交感神経機能――拍動や呼吸といったもの――に不調をきたすことになり、さらには身体に悪影響を及ぼすことにもなる――――

…と、著者はのたまわっております。検証不可能。笑 なんせこの人は自分の体験で話をしているので…。