アンカリング

 一見すると「アンカリング」はパブロフの条件付けのテクニックと似ている。パブロフは「ベルの音」と「犬に餌をやる行動」を結びつけた結果、餌を与えなくてもベルを鳴らすだけで犬が唾液を出すことを発見した。しかし、このような行動主義の条件付け手法においては「刺激は常に環境的な合図、反応は常に特定の行動」ということになってしまう。つまり、その結びつきは反射的なものであり、選択の余地はどこにもない。

NLPでいう「アンカリング」とは、R.O.L.Eモデルの要素間に関連性を確立し、その関連性を環境・行動以外のロジカルレベルにまで拡大することを意味する。たとえば過去の記憶の断片はある特定の感情のアンカーになりえる。また声音や声の調子も、その人から興奮状態や自信を引き出すアンカーになりうるのである。こういったアンカーを意識的に選べば、特定の行動反応を引き起こす方法を構築し、迅速にその反応を引き出すことができる。アンカーとは、自分自身を力づけるための強力な武器にほかならない。我々はアンカリングにより、自らの創造性にまつわる心的プロセスを確立、活性化することができるのである。

 アンカーは二つの体験の連想を通じて確立されることがほとんどだ。行動の条件付けモデルでは、連想が反復を通じてより強化されていくことになる。同様に、アンカーもまた反復を通じててさらに強化される。たとえば誰かに「あなたが非常に創造的だったときのことを思い出し、その状態を追体験してください」と言い、その間ずっとその人の肩を軽く叩いていたとしよう。このプロセスを何度かくりかえせば、次第に「肩を軽く叩く」という動作が、その人にとっての創造的な状態と結びつくようになる。最終的には、その動作によってその人は自動的に創造的な状態を思いだせるようになるのである。